武生事件

昭和24年10月31日 衆議院 法務委員会
[012]
民主党(自由民主党) 大西正男
実は休会中の9月20日に、福井県の武生というところにおきまして、裁判所並びに検察庁の庁舎が焼けたという事件が発生をいたしました。

この事件が新聞に報道されたのでありますが、その新聞の報道によりますと、その出火の原因をさっそく検察庁におきまして調査をいたしましたが、これが失火であるという証拠が出て来なくて、むしろ放火ではないかという疑いが濃厚であるようであります。しかもこの放火は、その武生の町におけるところの暴力団が計画的に放火をしたのではないかという疑いが濃厚であるようであります。

と申しますのは、ちょうど火の出ました9月20日の翌日、9月21日にこの土地の暴力団の団員と認められますところの伊原という人間と、そのほかもう1人の人間が、あるいは恐喝あるいは公務執行妨害によって起訴されまして、その公判が9月21日に開かれることになっておったようであります。

その前日に、その公判を開くべき裁判所の庁舎が焼けてしまったという事件でありまして、その間に、新聞の報道によりますと、出火をいたしました9月20日の前日であります9月19日に、そこの自治体警察の重屋という刑事課長そのほか5名の警察官が料亭に呼ばれまして、そうして暴力団の一味と見られる者たちと飲食を共にいたしておるのであります。しかも翌日の午後2時まで飲食を続けたという事実があるようであります。

そうしてまたその出火をいたしました4、5日後におきまして、そこの自治体警察の当時の署長であるところの野邊という署長が、先ほど申し上げました被告人であるところの伊原と一緒に飲食をいたしまして、町を歩いておったというふうな事実もあるようであります。

それからまた新聞の報道でありますが、今月の7日ごろらしいのでありますが、先ほど申し上げました重屋という刑事課長そのほか5名の者とやはり飲食を共にしておる。

さらに出火の数日後であります9月23日に、先ほど申し上げました伊原という被告人が自治体警察ヘビールを運び込んで、そうして署内において刑事課長その他に対してこれをふるまっておるというふうな事実が存在をいたしておるようであります。

そこでこういうことのために、この出火の原因の捜査についても非常な齟齬を来しておるのではないかというふうなことも想像されるのであります。

また当時の新聞に出ました福井地方の検事正の談話によりますと、思いのほかに警察が腐敗をいたしておる。徹底的に摘発し、洗いたいということが出ておるのでありますが、警察の腐敗がどの程度に達しておるものかどうかわかりませんが、これによりまして警察とそうしてまた検察側との間の連絡というものが、本件においてたまたま出たわけでありますが、その間に捜査上全国的に考えまして、警察と検察庁との関係などというようなことにつきましても、相当問題を含んでおるのではないかと想像されるのであります。

従いましてこの事件につきまして、当委員会として現地に出張いたしまして、事案を調査する必要があるのではないかと考えるのでありまして、この点もお諮りを願いたいと、かように存ずる次第であります。

[013]
委員長代理(民主自由党) 角田幸吉
お諮りいたします。ただいまの大西君の御発言に対して、理事会に諮って適当な措置をいたしたいと思いますが、ご異議ありませんか。

〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

[014]
委員長代理(民主自由党) 角田幸吉
異議なければさよう決定いたします。他に御発言がありませんか━━本日はこれにて散会いたします。次会は公報をもってお知らせいたします。





昭和24年11月17日 衆議院 議院運営委員会
[002]
事務総長 大池眞
11月7日付になっておりますが、法務委員長の方から武生の裁判所及び検察庁の怪火事件調査のために田嶋好文(※民主自由党)君、田万廣文(※日本社会党)君、大西正男(※民主党)君の3名を、7日間にわたって調査のために派遣をいたしたいという申出がありますので、いかが取扱いますか。日はここで御許可になり次第、日程をつくりたいと言っております。

[003]
委員長(民主自由党) 大村清一
それでは法務委員長代理田嶋理事の御説明を願います。

[004]
民主自由党 田嶋好文
私から説明いたします。この武生市の怪火というのは、昭和24年の9月20日に、裁判所が何者かの手によって焼かれてしまった。こういう事件なのであります。

この事件につきましては新聞で報道されておりますように、現在検察機関の発動となりまして、検挙されております。いずれ裁判にかかることでございますから、私たちはこの事件の内容とか、その裁判の運行に対する問題とは離しました意味においての調査を目的としておるのであります。

そもそもこの武生に起りました怪火事件というのは、新聞紙上の報道その他の情報を総合いたして見ますと、よって来るところの原因が深いのでありまして、おそらくこの怪火の後には、警察の綱紀弛緩、検察当局の綱紀弛緩という大きな問題がはらまれていたと考えられているのであります。

なおこの怪火前に裁判所において8冊の記録が紛失をいたしております。それらを総合いたして見ますと、警察、検祭ばかりではなくして、裁判所においても相当にその事件処理におきまして、綱紀の弛緩が見られるでありまして、これらの点を追究することが私たちの調査の目的であります。

なおこの期間の点でありますが、これは向うへ参りまして、そうした意味の調査の関係上、50名になんなんとするたくさんの証人を調べなければならぬことになっております。従いまして3日、4日というような短期間では参りませんので、特に会期中1週間をお願いしなければならないことになったのであります。





昭和24年11月29日 衆議院 法務委員会
[050]
委員長(民主自由党) 花村四郎
この際武生裁判所及び検察庁怪火事件に関する委員派遣の報告を求めます。田嶋好文君。

[051]
民主自由党 田嶋好文
先般国会の承認を得まして、われわれ国会議員は武生の裁判所並びに検察庁に起りました放火事件の調査に参ったのであります。その調査につきまして、ただいまから報告をさせていただきます。

福井地方裁判所並びに同検察庁武生支部庁舍の火災及び公判記録等重要書類の焼失は、武田太平及び伊原忠成こと伊聖熙等10数名の暴力破壊を好む分子、及びもと朝鮮連盟構成員が、審理処罰を免がれんがためになしたと認められますところの大胆不敵な集団的、計画的放火であったのであります。これはわが国司法史上まったく前代未聞の事件であります。

今その遠因をたどってみますと、元来福井県人は、北陸の他県人に比べまして気が荒いと言われております。そうして名古屋高等裁判所管内におきましても、従来難事件の一番多い県とされているのでありまして、終戦後においては特にこうしたことがひどくなったようであります。

博徒、的屋等の暴力団の数もたいへん多いのでありまして、17個団体を数えることができます。そうして人員は500名になんなんといたしておるのでありまして、そのうちの半数以上は子分30名以上を持った有力な暴力団体ということになっております。なかんずく津一家は子分32名、坂本組は子分170名、橘一家、子分44名等は、県下におきましてもその名をうたわれました朝鮮連盟であったのでありますが、武生市におきましては、木下繁という的屋の親分がありまして、これは子分を40人以上も持っておるということであります。現在市会議員をいたしております。その輩下におる和田善次こと和田吉春というのは博徒の親分でありまして、子分を30名くらい持っておるのであります。木下は相撲勧進元である府中山5代目というのを自分は退いて、この和田善次こと和田吉春に6代目を襲名さしておるのであります。

また武生市会においては――まことに遺憾なことでありますが、武生市会の定員30名の中で、半数以上が前科者である。また市内の不良暴力分子は、これらの市会議員と緊密な接触を保っており、市制について常に関与いたした状態があるのでありまして、まことに武生市は暴力の町とも言っていい町となっているのであります。

これに対して警察の整備状況はどうかと申しますと、国警の地区署が8つあります。そうして自治警が17あって、自治警、国警あわせて25になるのでありますが、その定員がわずかに832名という少数の状態であります。

また警察のこの状態に対して、朝鮮人の県内居住者は何人かと申しますと、福井県内に男2734名、女4369名おるのでありまして、これらの朝鮮人はほとんどやみ買いやみ商売ということで生活を営んでおるようであります。福井においては、朝鮮人は男が678名、女が522名、合計1200名、居住いたしております。今回問題の起りました武生市には、3万の都市に208名の朝鮮人が居住いたしておりまして、この数は男が136名、女が72名ということになっておるのであります。

こういう状態からいたしまして、これらの分子がどういう活動をしておったかということを申し上げみますと、まず市政関係は、現在民主自由党の系統と称するところの人が市長に就任をいたしておるのでありまして、この市長の派に対する反市長派というのは、現在民主党の立場に属する方々によって、構成をせられておるようであります。なおそこには、共産党の支部、社会党の支部等もあるようでありますが、市政は主として市長派、反市長派によって運営をされているようであります。市会の分野は、先ほども申し上げたように、30名の構成員であるのでありますが、この中で半数がほとんど前科者であるというような形であり、反市長派は現在民主倶楽部というものを構成いたしておるのであります。

この反市長派を牛耳っておりますところの高木政二という者は、民主党系でありますが、前科数犯を持ち、なお市会議員として選任せられる直前には、前科の裁判をのがれるために遂に逃走いたしまして、その犯罪を時効によって消滅させ、帰って来て市会に当選したというような閲歴を持った親分であります。

なお、市長派といたしましては、先ほど申し上げましたように、賭博の的屋の親分でありますところの、子分を40名も持つ木下繁というのが市長派の大幹部として牛耳っておるのでありまして、その下には、木下繁の府中山6代目を襲名いたしました和田善次というのが、院外団的存在といたしまして、やはり市政に関与しておるようであります。こういうような状態が市庁内に見られるのであります。

次に市の警察、つまり市警でありますが、これは前市長時代と現市長時代を区分して考えなければならぬと思います。前市長である野邊という人は、武生市の放火がありました前の日に辞表を提出いたしました。20日に放火があって、19日に辞表を提出いたしまして、暴力団一行とともに飲食までしておる市長でありますが、この前市長の野邊という人は、常に暴力団であるところの和田善次につながりを持っております。野邊市長に和田との関係を聞きますと、親から和田のめんどうを頼まれておるのだから、和田をかわいがっておるのだと陳述しておりますが、この野邊前市長と和田の親分とは密接な関係で、まだその関係が切れないというような、まことにいまわしい関係にあるのであります。

現在放火犯人としてあげられておりまして、元朝鮮連盟におりまして、最もきつい主張をしておったと申します伊原忠成事伊聖熙は、野邊市長とは数回にわたって飲食を共にいたしまして、相当関係も濃いものとわれわれは認めて参ったのであります。こういうような関係から、市におきましては暴力団を検挙する意思が全然なかった。市の公安委員会において、暴力団検挙を数次にわたって市の警察に勧告をいたしておるのでありますが、公安委員会の言を市長は聞こうともせず、依然として、この暴力団を武生市にのさばらすことに協力しておったような感じが見受けられるのであります。

次に遺憾なことでありますが、検察庁の武生支部においても、市警同様とは申しませんが、まことに遺憾な点が多々あったのであります。

まず第1としましては、今年の5月ごろから10月に至る間において、公金が50万円なくなっておるのであります。そのうちの38万の金は、検察庁の庶務会計をやっておりました久野登志雄というのが、横領して、これは現在刑が確定いたしておるのでありますが、内部の者が横領しておるにかかわらず、6月にわたりまして、しかも回数においては数10回にわたってその金を横領したと本人は言っておりますが、その数10回にわたる横領を気づかず、しかも外部から入った林好視というのが、13万3000円の公金を窃取いたしたのであります。この窃取につきましては、探究すれば相当深いものがあるのじゃないかと思っておりますが、この林好視が入って来て金をとった。とられて探してみて、とられた金よりもなおかつたくさんの金が足りないということがわかって、びっくりして捜査を開始したところ、自分の内部の久野登志雄が横領しておるという事実がわかったのであります。まことに間の抜けたと申しますか、実に緊張度の足らない遺憾な点がここに見出されるのであります。

なおこの久野登志雄の公金横領が遺憾なばかりでなく、第1に今年の5月に久野登志雄が2万5000円の検察庁の公金を横領いたしておるのであります。この横領金に対して、金がないというので相当あわてたようでありましたが、金がなくなったことを上司に報告して措置を仰ぐというような、検察庁の官吏らしい態度をとることなく、公金横領という事実に対して、臭いものにふたをしようという態度を検察庁がとったのであります。その臭いものにふたをしようという態度をとった結果はどうなったかと申しますと、遂に現在の庶務課長の服部というのが、市長の派である一方の暴力団を牛耳ると称せられる木下の上にある大澤清に借金を申し込みまして、2万5000円の金を大澤清から服部が借りております。そうして2万5000円の穴埋めをいたしております。大澤清はそのつながりを持つところの前市長の加藤勝安に頼みまして、この金を出して検察庁の穴埋めをいたしました。

それからさきの検察庁と市長派とのつながりは、どういうふうになっておったかということは、皆さんの御想像におまかせいたしたいと思います。なおこの反市長派の高木政二というのはひんぴんと検察庁に出入りをして、副検事の中田氏が病気入院の場合には、その入院のあっせんまでしたと言われております。こういうように、検察庁においても遺憾ながら暴力団とのつながりを肯定しなければならないような状態があるのであります。まことに暴力団の武生市を中心として、国家機関への浸透は恐ろしいものがあったことをわれわれは想像しなければなりません。

次に裁判所の関係でありますが、裁判所に対しては、幸いにしてそこに駐在する伊藤という判事が温厚篤実な方であり、そうした面に対してまことにりっぱな態度をとっておるかのごとくわれわれは想像せられるのであります。この人の人柄は、裁判所関係からは、そうした暴力団とのつながりを見受けることができませんでしたが、暴力団は裁判所にもその足を延ばしまして、伊聖煕と和田は、伊藤判事を脅迫いたした事実が証言せられておるのであります。自分の言うことを聞かなければ、このままではおかぬからということを伊藤判事に申しておる事実があります。

以上が武生市を中心として見た状態でありますが、こうした状態にあったものが、どうして今回のような放火にまで発展したかと申しますと、これは先ほども申し上げましたが、林好視というのが元地方事務所の職員でございまして、なかなか頭がいいようでありますが、窃盗的習癖がありまして、数次にわたって窃盗いたしておるようであります。この林好視が窃盗によって裁判にかけられると、彼は何とかして自分の罪をのがれたいとあせり、常に裁判所においても否認を続けておったようでありますが、だれ言うともなく、裁判所の記録をなくしてしまえば裁判ができなくなって、結局無罪になるということを耳にしまして、自己の犯罪に対する裁判記録の窃取を企てたのであります。遂に7月20日には、記録6冊を裁判所の内部から盗み出して――その裁判所の内部の当時の設備はあとで申しますが、まことに不完全であった関係上、林好視がそのすきに乗じまして、7月20日記録6册を盗んでおります。8月11日にはまた記録を盗むべく入ったのでありますが、これは未遂に終り、遂に8月13日には林好視は裁判所でなくして、検察庁まで侵入して、検察庁の公金13万3000円を窃取いたしておるのであります。9月の4日には、同じく公金の窃取か記録の窃取か知りませんが、検察庁に侵入いたしておるのであります。これは未遂に終っております。

これが本件の放火犯の被疑者である林のやり方なんでありますが、この林につながるものに、やはり被疑者の武田太平というのがあります。これは三枚新聞の社長でありまして、今恐喝罪で裁判中であります。この恐喝罪で裁判を受けている途中、本人非常に検察庁や裁判所に反感を抱いておった。そうしたきらいが見られるのでありまして、この武田は林といとこという関係から、放火に対しては武田と林が連絡をとったものと認められます。

なお先ほど申し上げました伊原忠成こと伊聖煕という、元朝鮮連盟員の有力な方でありますが、これはやはり公務執行妨害罪で現在裁判中でありまして、同じく検察庁や裁判所に相当な反感を抱いておったかに見えます。武田太平と伊原とは、武田が恐喝罪で市警にあげられ、伊原が公務執行妨害罪であげられた当時、市警間において知合いの関係ができ、その後密接な交際が生まれたようでありますが、この武田太平を通じまして、伊原と林との連絡がついたようであります。

また和田善次、先ほど申し上げました暴力団の親方でありますが、これと伊原とのつながりは、市会の分野において、政治的な折衝をする場合に、いろいろな問題を通じまして知合いになったきらいがあるのでありますが、この和田善次の子分が裁判にかけられるに至りまして、和田も子分の関係から裁判所や検察庁に相当な反感を持って、和田、伊原、そうして武田、林の関連性がここに生れたように思います。

以上の人間は裁判所、検察庁に反感を持つ関係から、時期があれば放火をしようと計画をいたし、いかに放火し、いかにしてその結末をつけるかを協議したように思われますが、協議の結果、裁判所、検察庁、市警察、こうした国家機関の無能であることを彼らは認めたようでありまして、この無能な国家機関がある以上、自分たちが放火しても、決して検挙せられることはないだろうという結論を生み、遂に今回の放火事件に到達したのではないかということが、各証人の証言によって、私どもは裏づけをされました。こうした関係で放火が10月(※9月)の20日に決行されましたが、内容につきましては、こういうような内容を持っております。

昭和24年の9月20日午前5時ごろ、あらかじめ山口龍男、武田勉、これはいずれも和田の子分でありますが、この2人及び佐藤勇を擁して、同市吾妻町武生市消防署の自動車車庫に在庫中の消防自動車2台の配線をとりはずしまして、そうして消防自動車の消火活動を妨害した上で、武田太平、山住鎭亮、澤田仁美、渡邊廣、坂井正作その他におきまして、右裁判所附近で見張りをいたしました。こうして伊聖熙と林好視、李喜雨、車東宋等におきまして、同裁判所事務所室内で所定の軽油を床の上に撒布いたしまして、持ち合せのライターで点火いたし、放火いたして同裁判所並びに福井検察庁武生支部、法務府武生支局の共同庁舍でありますところの、同時に裁判官伊藤泰藏の住居に使用せる建物を全焼してしまったのであります。林好視はこの場合に誘導役、それから軽油をまく役等をいたしておるようでありますが、この軽油につきましても、普通の軽油ではなく、非常に点火が早く、一旦つけた以上必ず燃え上るという性質を持った油、特殊の知能と、特殊の方面から入手したのではないかと認められるところの油が用いられているとも承っておるのであります。こういうような状態におきまして本件の事件は発生し、結末を告げたわけであります。

私たち派遣委員といたしましては、この事情、状態を総合いたしました結果、こうした結論を生み出すに至りましたので、委員会の御承認を得るに至れば、まことにけっこうだと思います。

第1に国政の面でありますが、国政の面におきましては、武生市を中心といたしまして、あらゆる機関の内部に暴力的手段を好む分子が侵入いたしまして、国政は極度に腐敗紊乱していて、その運用がまったく阻害せられておったものと認められます。

第2に治安の問題でありますが、国家機関が左のような状態でありますから、機能が麻痺いたしまして、その能力を発揮することができず、治安維持上も憂慮すべきものがあったのでありますが、幸いこの点は放火後の福井地方検察庁、国警等の努力と、武生市警の人事の交替等により、漸次回復するものと認められるのであります。

第3、国家機関に欠陥がなかったかどうかという点でありますが、遺憾ながら国家機関にも人員の配置、有能人の欠乏、設備の不十分等、幾多の欠陥を認めざるを得ないのでありまして、この点におきましては、政府といたしましても十分な施策が必要であると認めるのであります。

なお本件は、暴力的行為を好む分子と、元朝鮮連盟員の共同行為より発生した事件であるということは確認せられるのでありますが、その背後関係につきましては、単純なものとは認められないのであります。その背後勢力関係は、裏日本に最近続いて起りました裁判所、検察庁等の放火、同未遂事件等と照し合せまして、徹底的にこれを調査し、国民の前にこれが真相を明らかにする必要があるものと認めるものであります。以上報告いたします。





昭和24年12月22日 衆議院 議院運営委員会
[006]
事務総長 大池眞
法務委員会から委員派遣の承認申請が参っております。これは裏日本におきまする福井、武生、米子各市及び福井県の今立町の裁判所または検察庁怪火事件調査のためということになっております。派遣の期間は10日間休会中を利用して行きたい。行かれる方の氏名は田嶋好文(※民主自由党)さん、武藤嘉一(※民主自由党)さん、田万廣文(※日本社会党)さん、大西正男(※民主党)さん、この4名を10日間福井、武生、米子及び今立の検察庁並びに裁判所の怪火事件調査のためにやりたいということであります。



[015]
民主自由党 田嶋好文
それでは私からちょっと御説明いたします。実はこちらの御了解を得まして、福井県の武生市に委員を派遣して調査をいたしたわけであります。結果は国会の方に御報告いたしました通りでありますが、この事件は実は福井県の武生市のみの事件とは考えられないのでありまして、そのほかに調査の結果福井市に起ったと同種の事件、それから福井県の今立町に起った同種の事件、それから鳥取県の米子市に起った同種の事件、こうした事件が連続的に起っておるのであります。

そこで今回の調査は武生市の再調査ということでなくして、こうした関連性を持った福井市、今立町、米子市の事件を、こういう関係において調査を進めたいと思っておるのであります。

なおこの武生市におきましても委員会の調査に対する報告はいたしてありますが、最終的結論といたしましては、いまだ出ていない。4地区を総合いたしまして、初めてわれわれ委員会といたしましても、最終的な意見がまとまるものと考えておるのであります。よろしく御審議を願いたいと思います。

[016]
日本共産党 神山茂夫
今の田嶋君の報告を兼ねた意見を聞きまして、私たち趣旨としては心から賛成したいのです。ことに裏日本全体のこの事件については、いろいろとりざたもありますけれども、先般行かれた委員諸君の調査によって、大体事件の一斑と、根底にあるものがわかって来たと思うのです。従ってこれを全体として究明されることは、法務委員会としてぜひやっていただきたといと思います。

武生の問題は全体の関連としてとらえるというのであったならば、あえて反対するものではありませんが、人員の点や期間の点で、できるだけ人員を少くして能率を上げていただきたいということは、運営委員会として現在の予算の関係から共通の希望だろうと思います。その点がいれられれば、趣旨にはまったく賛成でありますから、この点について他の各派の御意見をお聞きの上で御決定を願いたいと思います。

[017]
法務委員長(民主自由党) 花村四郎
ただいまの田嶋委員のお話につけ加えておきたいと思うのであります。すでに議長に報告をいたしてありますので御承知だろうと思いますけれども、この事件はわが法政史上前代未聞の事件でございます。しかもその裏面につらなっておりますところの幾多の複雑した問題があるのでございます。

これは要するに武生事件の調査から生れたので、従ってこの一連の事件を調べるということは、武生事件を調査した結果として当然なさなければならぬということで、私の方でも相当資料が集まっております。その資料の真偽のほどが明確ではありませんので、従って委員を派遣して、つぶさに調査をしようというのでありまするが、もし諸君がその資料が必要であり、なおかつ詳細に述べろということでありまするならば、資料を取寄せて、詳細に申し上げてもよかろうと思います。ただ時間の関係もありますので、簡単にかいつまんで田嶋委員から御報告した次第でありまするが、これは議会の国政調査によらずんば、この重大なる問題はとうてい究明し得ないことは、きわめて明瞭でありまするので、この点御了承の上委員だとか費用とか、そういうことはあまり論ぜずに、この暗いところの事件を明らかにして、わが法務関係並びに検察行政の上に、明瞭なる光明を見出すことができるように、御配慮を願いたいと思います。

[018]
委員長(民主自由党) 大村清一
いかがでしょう。神山君から御意見もありましたが、関連的に調べるとするならば、武生も認めてよかろうという御意向でありますし、大分広範囲でもありますから、この程度でいかがでありますか。

〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

[019]
委員長(民主自由党) 大村清一
それではこの委員派遣の件は、議長において承認するように答申いたしまして御異議はございませんか。

〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

[020]
委員長(民主自由党) 大村清一
それではそのように決しました。







昭和25年02月07日 参議院 地方行政委員会
[073]
委員長(無所属) 岡本愛祐
次に警察に関する審議に移りまして、最近武生事件、福井の刑務所事件、米子の裁判所及び警察所の事件、それから弘前の裁判所の事件、いずれも放火又は放火か失火か分らない事件でありまして、これらにつきまして国警本部で調べられておる点の説明を願いたいと思います。

[074]
政府委員(国家地方警察本部部長(刑事部長)) 武藤文雄
先ず武生の裁判所放火事件から御説明申上げます。

昨年の9月20日に、武生市にございますところの福井地方裁判所武生支部、福井地方検察庁武生支部、この調査において、宿直員の小倉事務官補が宿直中に午前5時頃パチパチという音がして、それで目を覚ましまして庁内を見廻りましたところ、その地方裁判支部の事務所内が一面に真赤に燃えておった。そこで驚きまして火事だ火事だと騒いで、続いて起きて来ましたところの加藤、高田両宿直員、それから伊藤判事、これらと一緒に消火に努めましたが、庁舎全部に火が拡がりまして、約1時間で庁舎100坪余、判事の住宅16坪半、これを焼き、裁判所、検察庁において保管中の事件記録、証拠品類等を殆んど焼失してしまったという事件でございます。

又発火と同時に現場に急行しようとしました消防自動車は、何者かが途中配電線を切断して妨害してあった。そのために現場に着くのが遅れて防火活動ができなかったという事実がございます。

この調査は、国家警察と自治体警察の共同管轄区域であるというような点、又建物の方で検察庁も関係しておるというので、国警、自警、検察庁の三者の共同調査を実施することになって、いろいろ原因の調査に当って見ましたところが、失火の疑いは極めて薄い。そこで放火事件としての捜査を進めて参ったわけであります。

遂に暴力団伊原一派及び和田組の子分の犯行と判明するに至り、これを検挙するに至ったわけであります。放火の動機といたしましては、この事件の首謀者の伊原こと伊聖煕、これは元朝鮮人連盟の支部員であります。又暴力団の親分でありまして、昨春来傷害、公務執行妨害等で4回検挙されておりますが、検挙後は毎回直ちに保釈で出ております。保釈で出ては又犯罪をやって検挙されておるというようなことをやっておったわけで、審理未済のものが3件も残ってる。この記録がその裁判所で保管されている関係から、これを焼いてしまって罪を逃がれようと考えまして、又昨年9月に朝連が解散になったについての反感もあるというような点から、裁判所はその報告の出先機関であるというふうに考えまして、裁判所に放火してこれを焼こうということを考えたのであります。

そこで同じく新福井新聞という新聞を経営している者で、やはり恐喝で、保釈になっておりますところの武田太平という者に相談をして、武田もこれに賛成をし、更に遠縁に当るところの林好視というものに加盟を求めて、これらで事犯を進めて行ったわけでございます。この林も当時窃盗容疑で、保釈中でありました。自分の裁判記録を盗みに裁判所に侵入したこともあるというようなことでありましたので、直ちにこれに賛成をしてこれに加わったわけであります。そこで親分の伊原は更に子分約8名を計画に参加させ、更にその子分であるところの卓東守という者でありますが、これは仲間の暴力団の和田一家の子分の山口外3名を加入さしてやりました。

犯行は9月20日午前5時と定めて、そして当日は被疑者が裁判所附近にあるところの伊原方に全員集合して、放火執行班、連絡班、見張班など担当を決めまして、一方消防自動車の妨害班を作って人を配置する。そうして裁判所に侵入しまして、伊原方から持って行ったところの缶と一升瓶に入れたところの軽油を裁判所の事務室内一面に撒布しました。それが伊原が火のついたものを室内に投げ入れて放火した事犯というわけであります。

又その直後でございます、確か10月の初旬であったと思いますが、今立市の警察地区につきましても同じような事件がありました。この犯人は今申上げました林好視でありまして、放火の動機といたしましては、林が今立警察地区署に窃盗容疑で再三検挙されておるその怨み。それから窃盗事件に対する証拠を湮滅しようという同機で、この林らが今立地区署に又放火をやっております。

更に10月15日に福井刑務所の集団逃走計画があるという件が起りましたが、これは未遂に終っております。いろいろ集団して逃走する計画が進められておったのですが、密告がありましてこれを防止したのであります。当時はこの事犯も前の放火事件と関係があるというふうにいろいろ取沙汰されたのでありますが、真相は直接関係はありませんし、又やや誇大にいろいろ伝わった状況もありますし、そこで事犯は、かような状況で現在12名検挙して起訴になっておりまして、4名だけ逃走中で、引続き捜査を続けております。

この放火事件に関連していろいろ暴力団のことが言われておるのでありますが、その間の事情を若干申上げて見ますと、そこの武生の市警が和田一家の暴力団と非常に腐れ縁があるというようなことが取沙汰されておるのでありますが、その間の事情を申上げますと、前署長の野邊警視、これは人柄は非常にいい人だった、併し酒が好きで職務に熱心とは言えなかったと言われております。市当局とは余り関係が円満でなく、警察費の関係なんかでとかく衝突をしておった事情があるようであります。こういった衝突もあるということでつい段々と職務に対する熱意を失って、常に辞意を漏らすというような事情にあったようであります。現に放火事件のありました翌日に本人は辞職しております。かような署長でありますので、和田一家の暴力団の横行に対しては、やや熱意を欠き知らん振りをしておるという状況があったようでありますが、さればと言って特に親交が深かったということはないようであります。

かような原因もありましたが、むしろ積極的な原因といたしましては、同市警の刑事課の方に刑事課長の重屋警部補という者がおります。この人は比較的刑事経験も浅いということで、その次席の巡査部長の言を容れて、犯罪捜査に和田一家の暴力団を利用しておったということがあったようであります。そういった関係で自由に警察に和田組が出入りするというようなことがあったようであります。例えて見れば和田一家の者が無銭飲食をしたと言って、或いは飲食店組合の幹部に暴行傷害を加えた、金を喝取したというような事件もあったようでありますが、署長としてこういう事件を積極的に取上げておらなかったというようなこともあったようであります。かようなことがありましたところにこの放火事件が起ったわけであります。

そこで合同捜査本部において積極的に調べ上げたのでありますが、そうすると調べておりますところの被疑者の中から、いろいろ漏した中に、事件当夜は警察の者と一緒に飲んでおった。そうして酔っぱらって帰ったから、放火できる筈がないというようなことを被疑者の1人が言を漏したのであります。併しその間の事情を調べて見たのでありますが、武生市警が、その前に県下で盗難検挙競争をやったところが、それで二等賞になっておるのであります。そこで署長は部下の労を犒(ねぎら)って金一封を与え祝宴を開き、更に二次会をしておったところが、和田親分、その子分らがその席上に現われて一緒に酒を飲んだというような事実はあったようであります。

又放火事件の捜査中に、捜査会議の内容がどうも洩れるというようなことがあった。調べて見たところが、市警の或る者がいろいろ事情を通報しておったという状況があったというようなことであります。その間において警察として余り好ましくないようなことが潜在しておるように窺えます。以上が武生事件の概要であります。





昭和25年02月10日 衆議院 法務委員会
[001]
委員長(民主自由党) 花村四郎
これより会議を開きます。

本日の日程は派遣委員より報告聴取の件であります。まず派遣委員より裏日本における福井、武生、米子各市及び福井県今立署等の裁判所または検察庁怪火事件調査の報告を願います。田嶋好文君。

[002]
民主自由党 田嶋好文
それでは私より、ただいま委員長からお話がありましたように、金沢刑務所、福井刑務支所集団逃走事件並びに福井県今立国家警察署の放火事件並びに福井地方裁判所、同地方検察庁武生支部の放火事件、鳥取地方裁判所、同地方検察庁の米子両支部の怪火事件等につきまして、先般法務委員会より田嶋好文(※民主自由党)、武藤嘉一(※民主自由党)、猪俣浩三(※日本社会党)、大西正男(※民主党)の4委員が調査のために派遣せられたのであります。この調査の結果をここに報告申し上げます。

まず調査団は1月の28日から翌月の2月の4日の間にわたりまして、今御報告を申し上げましたような地区の事件についてそれぞれ取調べをいたしました。福井県におきましては、証人といたしまして検事正以下15名、その他実地の検証等をいたしたのであります。米子におきましても検事正、裁判所長、市長等17名の証人を調べますと同時に、これも同様に現地につきまして実地の検証をいたしました。

(略)



[034]
民主自由党 田嶋好文
(略)

以上が調査をいたしました事実の内容でございます。調査団としてはこれを要するに今の報告で皆さんにも御了解を得たかと思いますが、この4つの事件は切り離して考えられる点もあるが――地域的には切り離されておるにかかわらず、内容的には切り離して考えられないところの相関性があるという点を重視するものであります。その相関性と申しますのは、まことに遺憾なことで言いにくいことでありますが、こうした事件の捜査にあたりましては、事件に関係があるかないかは別問題として、いつも捜査線上に某政党と某解散団体が浮んで参るということであります。

(略)

第4は、裏日本の問題でありますが、裏日本におきましては、こうした調査で事実がわかりましたように、常に事件の主謀者というものに、遺憾でありますが朝鮮人が含まれております。事件の主謀者に朝鮮人が含まれるということは、朝鮮人問題に対する対策というものが、治安にとりまして大事であるということが言われると思うのであります。

つきましては、この問題を解決するためには、日本国家として不法入国、密貿易の取締りを今よりもっと強化する必要がある。今のままの手放し的な不法入国に対する方途、密貿易に対する方途では、とうてい裏日本の治安は確保されない。裏日本の治安を確保するためには、ぜひともこの点を強く政府がお取上げになられまして、これに対する十分なる対策を必要とする、こう考えるのであります。

以上が調査団の調査いたしました結論から生れまするところの、政府当局に対する私たちの主張であります。以上をもちまして今回の調査の報告といたします。





昭和25年02月16日 衆議院 法務委員会
[038]
民主自由党 田嶋好文
外国人の登録問題はそれくらいにいたしまして、これも私たちが先般調査をいたしたことについての質問でありますが、先般法務委員会から武生検察庁、裁判所の放火事件の調査をいたしまして、住民諸君、県民諸君の反響を相当呼んだようでありますが、その後この放火事件に対する裁判が進行するにつれまして、いろいろと裁判の進行に妨害を与えておる事実があるかのように承っております。

実は2月11日付の朝日新聞の記事を読んで見ますと、こういう記事が出ております。

「武生放火事件については既に2回にわたる衆院法務委員会調査団の現地調査で背後に暴力団があるとの結論に達しているが最近同公判が進むにつれ、背後から直接、間接に審理を妨害する傾向が現われて来た、その1、2の例として今年に入ってから公判廷でただ1人集団放火を認めている林好視の実家(福井県今立郡河和田村)にマスクで顔を隠した3人の男が別々に訪れ、家族に「金に困っていないか、相談ごとがあれば遠慮なく申出てほしい」ともちかけ、一方林が留置されている今立地区署へは何者かが差入屋を通じて連日ぜいたくな食事の差入れをしている、また召喚されている証人宅へは検察事務官と称するものが現われ、暗に威嚇する態度に出ている、このため最近証人の欠席が目立ち、9日の第14回公判にも召喚した証人8名のうち4名が欠席した、しかも証人の証言のほとんどが起訴前の判事尋問をくつがえしており、9日一部傍聴人が福井地検須賀検事に「傍聴席から証人を監視しているものがいる、あれでは証人が気の毒だ、検察庁が保護すべきだ」と申入れた」

こういうようなまことに驚くべき記事まで載っておるのでありますが、その後この事件を中心とした事柄につきまして、法務府で御調査をなさったことがありますか、またこうした新聞記事の内容につきまして御調査なさったことがありましょうか。

われわれといたしましても現地調査をいたしました関係上、こういうことがあるとすれば十分な対策も考えなければならないと思ったことがありますので、一応これらの点について質問を申し上げたいと思います。

[039]
政府委員(刑政長官) 佐藤藤佐
裏日本の暴力団の動向につきまして、法務委員会の方で特別に御調査になりましたので、法務当局といたしましても重大な関心を持って調査いたしておるのであります。お尋ねの武生の放火事件の公判進行につきましては、新聞に報道されておるような事実についてはまだ何らの報告もございませんので、至急照会いたして調べてみたいと思っております。

[040]
民主自由党 田嶋好文
やはりこれと関係いたすのでありますが、武生の暴力団といたしまして、和田一家というものを法務庁が解散させております。そのほか私たちの調査によりますと、福井県を中心にして幾多の和田と同種類の暴力を用いる分子があると思うのでありますが、この分子に対する調査というものは法務府では進んでおりましょうか、また調査の上その事実が現われておりますれば、これに対していかような対策をお考えになっておるか、お伺いいたしたいと思います。

[041]
政府委員(刑政長官) 佐藤藤佐
和田一家の解散のほかに、ほかの団体においても団体等規正令の適用を受くべきものがあるかどうか、目下特別審査局の方で調べておりますけれども、ここでお話申し上げる程度にまだ到達いたしておらぬ状態であります。





https://ja.wikipedia.org/wiki/武生事件






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