王子朝鮮人学校事件

昭和26年03月20日 衆議院 法務委員会
[007]
自由党(自由民主党) 押谷富三
過般十条において勃発いたしました朝鮮人騒乱事件につきまして、田中警視総監にお尋ねをいたしたいと存じます。

朝鮮人騒乱事件として、本年に入りましてから起りましたものでも、さきに神戸、京都、大津、名古屋等の各地に続発いたしたのでありますが、当時本委員会においては調査委員を派遣して、これらの朝鮮人騒乱事件の調査を途げたのであります。その結果得ました結論では、この各地の続発朝鮮人騒乱は、相互の間に一脈相通ずる関連性を持っており、またその騒乱の性格等におきましても、あるいは教育闘争であるとか、生活闘争、経済闘争などの闘争目標を表に出しておるのでありますが、その実態は権力闘争という形になっておるのでありまして、闘争の性格もきわめて険悪なるものがあることがはっきりいたしております。

特にその計画性のごときにおいても実に根強いものがあったのでありますが、これらにかんがみまして、過般の十条の朝鮮人騒動につきまして、その騒乱の実情、特におもなる動機、原因あるいは騒乱の計画性、それから騒乱事件の性格等につきましてひとつお伺いをいたしたいと存ずるものであります。

[008]
参考人(警視総監) 田中榮一
ただいま御質問のございました過般3月7日、都下の北区上十条2の22の都立朝鮮人中高等学校におきまして発生いたしました騒擾事件につきましての御質問でありますので、一応私から大体の事件の原因並びに発生当時の状況並びにその措置等につきまして御説明申し上げたいと存じます。

これは朝鮮人中高等学校としては都内唯一の学校でございまして、これは終戦後在日朝鮮学校管理組合の設立にかかるものであります。昭和24年12月20日東京都教育委員会の決定によるところの朝鮮人学校教育取扱要綱というこの要綱に基きまして、都立学校といたしまして唯一の学校でございます。

ただいま中学校におきましては男が526名、女生徒379名、計905名、高等学校生徒といたしましては男が199名、女が46名、計245名、合計1150名在校いたしております。なお校内の宿舎は3棟ありまして、その収容されている定員は、大体90名程度であろうと考えております。

この学校は現在都教育庁の監督のもとにその運営を続けておるのでありまするが、本校の教育方針といたしましては、相当熾烈な政治闘争意識を学校生徒に植えつけているのであります。特に昨年の3月20日に行われました上野の台東会館の接収の際、その他各種の政治闘争にこれらの高等学校の生徒等が常に参画をいたしまして、実力行使のいわゆる行動隊として、相当第一線において活躍をしておるのであります。

さらに最近におきましては、「新朝鮮」あるいは「前進」、「朝鮮女性」等のいわゆる反占領軍的な印刷物を同校において印刷されておるというような容疑も濃くなって参って、本庁といたしましてはその視察内偵中であったのでありますが、たまたま2月23日、蒲田署のある巡査が蒲田駅構内におきまして挙動不審の男を発見いたしましたので、この男に対して職務質問を実施いたしましたところが、ただちに国電の中に逃走いたしたのであります。この巡査はただちに国電の中に同時に入りまして、その挙動不審の男に対して職務質問を実施いたしました際に、その男が電車の窓から持っておるふろしき包みを窓外にほうり出したのであります。

該容疑者をただちに引致いたしまして、蒲田署においていろいろ取調べいたしましたところが、本人は朝鮮人学校に寄宿をしておる学生であるということが判明いたしたのであります。それからその窓外にほうり出しました荷物は、26日に横浜の鉄道公安官のもとに保管されておることが判明いたしまして、品物の内容を調査いたしましたところが、非常に猛烈なる反米印刷物であったのであります。

これらの印刷物は御承知のように政令325号違反に該当する物件でありまして、この男の陳述によりまして、朝鮮人学校内にこうした不穏な印刷物がなお多数存在しておるという事実を突きとめまして、ただちに捜索押収令状をとりまして、これを2月の28日に執行いたしまして、同校の寄宿舎、職員室、教室、その他について一斉捜査を実施いたしまして、多数の不穏印刷物を押収いたしたのであります。

そこでこの一斉捜査を実施いたした翌日は、いわゆる3・1記念日に該当しておりまして、かねてからこの記念日におきまして、相当激甚なる闘争があるということも一応予定されておったのでありますが、本一斉捜査がありました翌日は、王子警察署に約300名の生徒が、きのうのあだ討ちだというようなことで押しかけまして、また板橋署、赤羽署にもそれぞれ相当の者がデモをかけて押しかけて参ったのであります。また中にはそのときの行動が不当であったというようなことで抗議をいたしたのであります。

その後同校内におきましては、PTA幹部並びに学校職員を中心に連日門をかたくとざしまして、秘密会を開きまして、今後の善後策を十分に協議いたしまして、きわめて不気味な空気が漂っておったのであります。

また3月6日には民主戦線大会対策会議というものを産別会館において実施いたしまして、翌日すなわち3月7日において朝鮮中、高等学校内において決行する人民大会につきまして、いろいろ打合せをしたのであります。

かようなことからいたしまして、相当関係方面に、この3月7日のPTAの大会に対しましては、できるだけ多数参加すべしという檄を飛ばしまして、一方朝鮮小学校教師から学童を通じまして、父兄の大会参加を慫慂(しょうよう)し、また夜を徹しまして、各方面に7日の大会参加の連絡をはかったのであります。

明けて3月7日の日には、午前7時半ころに飯田橋の職安分室にはすでに朝鮮高等学校の生徒、また同じ時刻に王子職安にも朝鮮人が来まして、就労のために参集しておりました自由労働者に対しまして、それぞれ大会参加を慫慂(しょうよう)いたしておるのであります。また同日の午前8時ごろ王子警察署付近道路上におきまして、朝鮮人学校生徒がビラを散布いたしまして、午前10時ころから王子朝鮮学校において大会を開くから多数集まれというようなビラを各所に散布いたしたのであります。

そこで9時30分ごろになりますと深川枝川町、世田谷4丁目の各部落、荒川駅等に朝鮮人が相当集結いたしまして、本大会に参加するけはいがきわめて濃厚に見られたのであります。かかる情勢のもとに9時30分ごろには三々五々朝鮮人学校の正門付近に集まって参りますので、警察署の措置といたしましては、PTAの連合会長尹徳昆に対しまして無届け集会を中止するように、警察といたしましては警告を発したのであります。しかるにこの警告にかかわりませず、10時30分ころには約300名の者が校門付近に三々五々集まって参りまして、当日在校の朝鮮人生徒1000名と合流いたしまして、相当気勢をあげておったのであります。さらに警戒線を突破いたしまして続々と集結いたしまして、正午ごろには生徒を含む総勢約1700名くらいに上ったのであります。

かかる情勢になりましたので、本庁といたしましては、ただちに予備隊等を動員をいたしまして、まず校門からスクラムを組んでおる朝鮮人の学生等を突破いたしまして、中に入りまして、そうしてこの無届集会を実力をもって解散をいたしたのであります。大体実力行使いたしましたのが、午後1時30分ころから始まりまして、約30分後大体全部の者を校外に排除いたしまして、その際に公務執行妨害をいたしました者約11名を検挙いたしたのであります。

その際にきわめて、抵抗が熾烈でありまして、木片または石灰あるいは灰等にとうがらしをまじえたものを警察官に対して投じ、あるいはその他の器具、器物等を投じましたために、多数警察官が負傷をいたしたのであります。

この際にニュース・カメラマンで、松本というニュース・カメラマンがこの乱闘中に取材行動中に負傷いたしまして、これもただちに警察官によって手当を加え、これを病院に収容いたしたのであります。現在この松本カメラマンに対する暴行は、警察官がしたのであるか、あるいは朝鮮人がしたのであるか、この点ははっきりいたしておりませんが、当時の状況からいたしまして、ニュース・カメラマンの取材行為を警察がさしとめる必要もありませんければ、またこれに対して暴行する必要も全然ないのであります。従って警視庁といたしましては、いろいろ調査いたしておりますが、警察官がやったとは考えられぬのであります。あるいは乱闘中に器物が当ったのか、その原因についてはまだはっきりしておりませんけれども、なおこの点についてはいろいろ調べておる次第であります。

かような状況で、このPTAの会合は多分に政治的の目的を持ったものでありまして、本来ならばPTAの会合でありますならば、当然校長の責任において開催せられ、何ら集会の手続をとる必要はないのでありまするが、先ほど私が説明いたしましたごとくに、連日連夜同校におきまして対策を協議し、また3月6日には産別会館において、民主戦線大会対策会議というものを開催いたしまして、この3月7日の大会に全力を集中する。それからまた前日の6日から各方面に向いまして、外郭団体その他関係方面を動員をいたしまして、大会参加を慫慂(しょうよう)いたしておるような状況からいたしまして、これが単なる学校内におけるPTAの会合とは客観的にだれが見ましても考えられぬことでありまして、従って警察といたしましては、これは純然たるPTAの会合にあらず、集会であるという見解をとりまして、これが都条例違反といたしまして、集会の解散を命じた次第でございます。

それからなお今回の事件は京阪方面に行われました事件と、事件の態様といたしましてはまったく同一でございまして、その前から警察官の実力行使に対しまして、相当計画されておることであります。

その一例といたしましては、ここにあります小さなビラでありますが、これは乱闘中に、午後1時ごろ校庭において拾ったビラでありますが、これにおきましては、すでに乱闘をして中学生が負傷しておることを書いておるのでありまして、乱闘中にこれが印刷されることはないのでありますから、あらかじめこうしたものが用意されておったということがはっきりわかるのであります。

それからまた同校庭は粘土質の校庭でありまして、煉瓦、石等はないはずでありますが、警察官の負傷しましたのは、大体において煉瓦のかけらであるとか大きな石ころでありまして、同校庭にはそういうものはないはずであります。そうしたものも前もって準備されたものと考えております。

それからまた実力行使の尖鋭分子といたしまして、青年行動隊200名をかり集めまして、これを前線に立たせ、スクラムを組んで警察官の突破を防止した。これもすでに計画的に配置をされておったことははっきりいたしております。

かかる点から申しますと、先般京阪地方に起りました騒擾事件と全然その軌を一にしておるものではないかと考えるのであります。ただ事件発生の直接の原因といたしましては、いわゆる政令325号違反の、反占領目的ビラの捜査に対して抗議を起し、それに対する一つの対抗手段としてかかる暴力行為になったものと考えております。直接の与えた原因は違うかも存じませんが、大体において騒擾事件を起したという大きな目的におきましては、はっきりしたいわゆる集団的暴力行為の形態でありまして、全然その軌を一つにするものであると思うのであります。

[009]
自由党(自由民主党) 押谷富三
ただいま御説明をいただきまして、その騒乱事件は関西における朝鮮人騒乱とまったく共通の点が多いことを感ずるのでありますが、この行動に参加いたしまして青年行動隊200名の者の行動につきまして、関西の方面においてなされた青年行動隊は、騒乱に備えてあらかじめ訓練をいたしておったのでありますが、この上十条の朝鮮人騒乱に加わった行動隊の人々は、あらかじめ訓練をいたしておったような事実がありますか、あるいはないか、承りたいと思います。

[010]
参考人(警視総監) 田中榮一
学校内の訓練状況でありますが、これは警察として十分に知っていないのであります。私どもの見方といたしましては、あるいはそうしたことを訓練しておったかも存じません。その点につきましては、まだはっきり御答弁することはできないのであります

[011]
自由党(自由民主党) 押谷富三
御説明の中で、この学校の生徒が表に立って行動をしたとか、あるいは特に計画してとうがらしその他を準備いたしておったとか、自由労働者に呼びかけておったとかいう行き方が、関西方面における組織立った一定の指導のもとになされておったのと、まったく軌を一にするものでありますが、こういうような行動、こういうような目的、すべてから考えて、その騒乱の背後には何か思想的な力というものがあるようにも考えられるのでありますが、朝鮮人騒乱のこの事件について、背後関係はお調べになっておるかどうか。もし調査が遂げられておるならば、この騒乱の背後関係を承りたいと思います。

[012]
参考人(警視総監) 田中榮一
本件につきましては、目下容疑者を逮捕いたしまして、取調べ中でございまして、まだこの取調べが完了いたしておりませんので、はっきりしたことはここで申し上げるのはどうかと考えておりますが、いずれ判明いたしましたら、お答えいたします。

[013]
自由党(自由民主党) 押谷富三
大体騒乱事情はよくわかりましたが、こういう騒乱に対して、警視庁の方面でこれを鎮圧その他の措置をとられるにあたって、常にどういう備えがあるか、概括的に御説明いただきましたら……。

[014]
参考人(警視総監) 田中榮一
こうした、騒擾事件に対しましては、本庁といたしましては、すでに昨年機構の改革をいたしまして、各方面にこうした事態が発生いたしましても、十分に治安が確保できるような機構をつくりまして、ただいま実施いたしております。

方面本部長が数箇の警察署を指揮、統率いたしまして、いわゆる統制ある大衆運動の取締りができるように、ある程度の融通性のある取締り方針を実施いたしておりますので、今後とも、こうした事件が起りましても、何ら心配はなかろうと思います。

[015]
自由党(自由民主党) 押谷富三
この騒乱に対して、ニュース・カメラマンが負傷をしたということはただいまの御説明でわかったのでありますが、まだその負傷の原因がまったく明らかでないようでありますが、その他の新聞記者に対しても何か間違いがあったのじゃありませんか

[016]
参考人(警視総監) 田中榮一
私どもの調査によりますと、ニュース・カメラマンの松本君が頭部に重傷を受けました以外におきましては、現在報道関係者の方々に対するトラブルはないものと考えております。

[017]
日本共産党 上村進
ちょっと2、3点今の事件の関連質問をしたいのであります。28日の朝捜査に行かれたということは、今の御説明でわかりましたが、そのときに一体警官はどのくらい参りましたか。

[018]
参考人(警視総監) 田中榮一
お答えいたします。28日朝鮮学校を捜査いたしましたときには、大体100名内外の警察官であろうと考えております。これは応援の警察官も入れて100名内外ではないかと思います。

[019]
日本共産党 上村進
私服の人はどのくらい行きましたか。

[020]
参考人(警視総監) 田中榮一
私服のものは大体30名内外ではないかと考えております。

[021]
日本共産党 上村進
その反米ビラというのですが、その文句なぞはよくわかっておりましょうか。どういうことが書かれておりましたか。

[022]
参考人(警視総監) 田中榮一
わかっております。

[023]
日本共産党 上村進
詳しいことは時間がかかりますが、大体どういうふうのことがビラに書かれておりましたでしょうか

[024]
参考人(警視総監) 田中榮一
その内容につきましては、公開の席上で申し上げるのはどうか思いますので、もし必要ならば、秘密会において申し上げたいと存じます。

[025]
日本共産党 上村進
その反米ビラというものにつきましても、むろん程度というものがありまして、そういうふうに、どうしてもそれを押収しなければならないものであるかどうかということは、内容によって非常に違って来ると思うのです。ここでできなければ、後に大体文書的にしてお示し願いたいと思うのです。

[026]
参考人(警視総監) 田中榮一
ただいまこの反米文書につきましていろいろ調査中でございますので、そのビラそのものをそのままここで申し上げることはできない。事件係属中のものでございますから、ちょっと申し上げることはできないと思います。

[027]
日本共産党 上村進
そうしてその数ですが、先ほど総監は、学校にそういう反米ビラがたくさんあるという聞込みで行ったというようにおっしゃったのですが、その数はどのくらい押収されましたか。

[028]
参考人(警視総監) 田中榮一
大体押収品の総数は、種々雑多でございまして、約45種類ぐらいにわたるものと考えておりまするが、その内容につきまして一々申し上げることはできないかと存じます。

[029]
日本共産党 上村進
われわれのところで大体報告、調査によりますと、動員された警官はまあ今おっしゃったような通りですが、その中に私服の警官がたくさんおりまして、酒を非常に飲んでおった。いわゆる一ぱいきげんになっておった人が相当おった。

そうして朝早いもんで、女子学生寮に土足で上り込んで、そうして就寝中の女子学生を、ふとんをまくって、無理やりに起して、そうしてある警察官はその女子学生に対してみだらなひやかしの言葉を相当浴びせかけた、こういうことになっておりますが、そういうことがはたしてお調べになってございますか。

酒を飲んでいたのは事実か、そのときの現場の指揮者並びに責任者の名前はだれかというようなことを一応御説明願いたいと思うのです。

[030]
参考人(警視総監) 田中榮一
宿舎を捜査いたしました際には、学校の職員の方々にお立会い願いまして、その上ですべて捜査いたしておりまするので、警察官がさような行為をやったことは絶対にございません。それからなお警察官としてあるまじき行為をしたようなお話でございまするが、そうしたことは絶対にありません。

[031]
日本共産党 上村進
次に、先ほど御説明になった3月7日の朝鮮学校事件のことですが、そのとき動員されてそこへ行った警察官の数はおおよそどのくらいになっておりますか。

[032]
参考人(警視総監) 田中榮一
大体1500名ぐらいだと考えております。

[033]
日本共産党 上村進
こちらの方の調査によると、どうしても3000名近くおったというのですが、今総監の説明では非常に少いですが、その点は、少くとも2500~2600名、3000名くらい動員した事実ではないでしょうか。

[034]
参考人(警視総監) 田中榮一
大衆運動に対しての取締りはできるだけ機動配置に重点を置きまして、一点から一点へただちに配置転換をさせるというような方法をとっておりますので、あるいは1500名が3000名に見え、あるいは5000名に見えたかも存じませんが、実際の数は1500名内外であります。

[035]
日本共産党 上村進
そのときの行かれた原因については先ほど御説明があったようですが、なお私どもの方で調査したところによると、警官の中でピストルをなくした者がある、それを探すためにそこへ行った。ピストルの紛失ということが原因の一つになっているというのですが、先ほどの説明にはそれがないようですが、ピストルをなくしたということは事実でございましょうか。

[036]
参考人(警視総監) 田中榮一
ニュースを写しておりました捜査二課の者に対しまして朝鮮人が暴行いたしまして、カメラを奪取しようと妨害いたしたので、これを救うべく1、2の警察官が飛び出した際に、蔵前署の小泉巡査部長が単身行きましたために、群衆の中に奪取されまして、打つ、ける、なぐるの暴行を受けまして、遂に彼は人事不省に陥りまして、その際に拳銃を奪取されたのであります。

[037]
日本共産党 上村進
今のお話はちょっと違いますが、私が質問しているのはそうじゃない。ピストルはずっとあとになってなくなったということであって、初めに行くときにはピストルの紛失云々ということは原因にはなっていないということでありますか。

[038]
参考人(警視総監) 田中榮一
御質問の要旨がちょっとわかりかねますが、ピストルを奪取されましたのは、いわゆる乱闘中に奪取されたのでありまして、その前に奪取されたことはないのであります。

[039]
日本共産党 上村進
それでは次に移りますが、総監の先ほどの押谷君の質問に対しては、何かいかにも朝鮮人が多数寄って騒乱をしておる、その取締りに出かけたようなふうに説明されたように受取っておりますが、実はそうでなくして、この学生が3月18日の事件に対するいろいろの検討を加え、つまりその真相の何を会合しておる、それを行っていきなり解散させようとした。そうして例によってやはり朝鮮人の方が先に警官におそいかかったのではなくして、いきなり多数の警官がその会場へ乱入して行って、そうして先頭に行った警官がこん棒をもってやたらになぐり飛ばして行った、こういう事実ではないでしょうか。

[040]
参考人(警視総監) 田中榮一
先ほど私が詳しく申し上げましたように、そのPTAの会合は純然たるPTAの会合ではないのであります。そこで都条例の上から申しましても、かかる会合は無許可の会合でありますので、9時30分に警察が、かかる集会は違反であるからして散会すべしということの警告を発したのであります。それにもかかわりませず、多数集りましてしかも校門にスクラムを組み、そうして中で会合いたしたのであります。

従いまして、警察といたしましては、かかる違法状態をそのまま黙認することはできませんので、実力行使によりましてこれが解散を実施さしたのであります。その実力行使をいたします際に、校庭におりまする者を全部場外に出したのであります。

[041]
日本共産党 上村進
こちらの調査と総監の説明とは大分食い違っておりますが、それはそれで議論になりますからとどめます。

それでつまりその警官の学生の乱闘というのですかを、日本ニュースのカメラマンの松本久彌という人が写そうとしたのであります。そうしておると、それを写されては困るというのですか、いきなりそばにおる警官がこん棒をもって松本君の右後頭部を強烈になぐった。そのために負傷して鮮血淋漓(りんり)たるものがあった、こういうふうにこちらでは調査になっておりますが、その点は先ほどの説明と違いますが、実際はどうなっているのでありましょうか。

[042]
参考人(警視総監) 田中榮一
警察といたしましては、ニュース・カメラマンが取材活動をされることは自由でありますので、ニュース・カメラマンが撮影をいたしますることを妨害する必要は全然ないのであります。むしろ警察としては取材活動でありまするからして、何らそれに対して干渉もいたしたこともありませんし、またとめたこともありません。

ただ従来の経験からいたしますると、非常にあぶない地点にありますときには、当然警察官として、生命保護の上から注意はいたしたことはありますが、今までの事件におきましても、ニュース・カメラマンの取材活動につきまして、警察としては何ら制肘をいたしたことはございません。

[043]
日本共産党 上村進
それはそれでなくちゃならないのでございますが、現実は争うべくもないので、結局カメラマンが取材活動中に、非常な大けがをしたということがあるわけであります。総監は部下をかばってそういうことを言うのでございましょうが、この本人の松本久彌の手記がございます。この手記は決してうそを書いているのではない。

全部読むわけには行きませんが、結局前の場所にアイモ・ケースを忘れて来た。その忘れたケースを労働者風の人がそばに持って行って松本君のところへやろうとすると、いきなり2人の警官がそのアイモ・ケースを持って行った労働者を手錠をかけてその場で逮捕してしまった。そうしてこのアイモを松本君から警官が奪おうとした。そこで同僚の朝日新聞の記者その他の人に応援を求めるために叫んだ、こういうのです。そうすると、そばにいた2人の警官のうちの1人が、こん棒をもって自分をなぐった。後頭部をこん棒でなぐった。私は危険を感じて、左へ首をまわしたゆえに、その後頭部に当ったが、私は彼を――彼をいうのは、加害者を見ることが非常に困難であった、こういうふうに、明らかに警官の1人が私をなぐったというふうになっておるのを、これのお調べはなくして、あるいは朝鮮人であろうかというようなことで、その警官の犯行をたなに上げておくということは、これは警視庁としてはよほど問題ではないか。

要するに、新聞記者、カメラマン、これらが社会の実相を、真実を写し、伝えるためには、どこまでもこれは保護されなければならないと思う。それがなぐられて、なぐられっぱなしであるならば、それは昔の切捨てごめんの政治と何らかわりはない、こういうふうに思うのですが、その点なお総監はどういうふうのお答えができるか、確かめておきたいと思う。

[044]
参考人(警視総監) 田中榮一
先ほど述べましたごとくに、警察官が取材活動中のカメラマンを殴打する事由は全然ないのであり、またその必要もないのであります。また従来の例におきましても、ニュース・カメラマンの取材活動につきましては警察としては、これは自由な立場においてニュース・カメラマンが活動されますので、できるだけそのことには便宜を供与し来っておったのであります。かような状態でありまして、この松本カメラマンに対して警察として何ら阻止する必要も当時なかったのであります。

またこのニュース・カメラマンが負傷した、その負傷の傷口――頭髪に相当どろがついているのであります。警察官が同様に頭部に相当負傷しておりますが、これも同様にどろがついているのであります。警棒にはどろはついていないと思うのであります。従って何か投石されたものにどろがついておったじゃないかというふうに考えられます。

それからまた警察官がニュース・カメラマンの付近でニュース・カメラマンに暴行をしているような現況を確認いたしましたので、ただちにその2名を逮捕いたしまして、調査いたしたのでありますが、その者がニュース・カメラマンを殴打したという事実は遂に出て来なかったのであります。その反対に、ニュース・カメラマンが頭部に非常に重傷を負いまして、鮮血淋漓(りんり)たる中に敢然としてアイモを握ってやっているうしろから、むしろ警察官2人がこれをバックしまして、教室の入口までこれを介抱して連れて来たという事実はわかっておりますが、警察官がなぐったという事実はまだ確実に私の方には判明しておりません。

ただこれは警察がその当面の関係者でありますから、この点につきましてはむしろ第三者である検察庁に十分御調査を願うことが最も公平であると考えまして、ただいま検察庁の方におきまして、この件につきまして厳重に御調査を願っておる次第であります。

[045]
日本共産党 上村進
今の総監のお答えは、まるでこっちの事実と反対のことになるわけでありますが、その2人の警官が擁護したということは――それはなるほどあとになって、倒れましたからそれを起したのはやはり警察官がやったかもしれませんが、2人の警官が倒れたものを擁護したその前に、2人の警官の1人がなぐったということは、一体今では全然否定して、お調べにもなっていないということでございますか。

[046]
参考人(警視総監) 田中榮一
私の方でも、もし警察官がかかる非行をいたすといたしましたならば、これはゆゆしき問題でございますので、警視庁内部におきましても、この点につきましては厳重にただいま調査中であります。

[047]
日本共産党 上村進
こういう事実はお調べになったかどうかお伺いしたいのですが、刑事部の捜査二課の島田領四郎という警部補が、この松本氏の入院されておる病院を訪問しまして、そして松本氏を親しく3時間にわたって調べた。

そしてその文句は、お前さんのその傷は警官がやったのではない、朝鮮人がやったのだという意味のことを繰返して言っておるということでございますが、はたしてこういうことがあったかどうか。あったとすればそれはだれの命令でそういうことをしたのか。その責任はどうか。

それから今総監が、全然警察側でないと言うのであるならば、この島田という警部補がわざわざそんなところへ行ってそんなことを言う必要はないと思うのですが、それらの実相はどういうことになっておりますか。

[048]
参考人(警視庁刑事部長) 古屋亨
私からお答えいたします。島田警部補がカメラマンの負傷状況の状況聴取に入院中の病院に参りましたことは、事実であります。ただ警察といたしましては、いやしくも傷を受けたというものにつきましては、その状況をすみやかに聞きまして、加害の状況を調べなければなりませんので、そういう意味において病院へ行って聞いております。ただお話のような、警察官がやったのではないということは言っておりません。

[049]
日本共産党 上村進
その点はそれでよろしゅうございます。それからもう一点、そのときの松本君などのカメラマンによって撮影されたところの光景のニュースですが、このフィルムは上映を禁止されておるということを聞いておりますが、はたしてそういうふうなことになっておるかどうか。その禁止は一体だれが命令したのか。警視庁では関係しておるのかどうか。この点を御説明願いたいと思います。

[050]
参考人(警視総監) 田中榮一
ただいまの朝鮮学校のニュースの上映につきましては、上映していいか悪いかということにつきましては、警視庁は全然関係しておりません。これはどういうふうになっているか私は存じません。

[051]
日本共産党 上村進
今の点はこれで終ります。





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