昭和26年02月01日 参議院 地方行政委員会 [007] 日本社会党(社会民主党) 吉川末次郎

昭和26年02月01日 参議院 地方行政委員会
[007]
日本社会党(社会民主党) 吉川末次郎
以上のようなことで、結論的に我々調査団の共通いたしますところの所感を申上げたいと思うのであります。

この種の事件は、これを個別的に切り離してばらばらに観察するのでは、到底その真の性格と意味を把握することはできないと考えます。千変万化する事件の表面的形態に眩惑されるということなくして、これを一連の相関関係において把握し、その奥に潜み、その根底にあるものを衝かなければならんと思われるのであります。

即ち今回の各事件は、表面の様相は異なっておりましても、ひとしくいわゆる2つの世界の対立する国際政治情勢を反映するものとして、これを総合的に認識する必要があると考えるのであります。

更に具体的に申しまするならば、今回の事件はいずれも朝鮮動乱の推移に刺激され、影響された共産主義勢力と、旧朝連糸の朝鮮人の尖鋭分子らが互いに気脈を通じて、現下の情勢を利用し、勢いに乗じて学生、自由労務者、一般左翼分子等に働きかけて、共産党のいわゆる地域権力闘争を同時発生的に各地に展開いたしまして、その暴力的戦術を実地に試みることによって、かねて企図しているところの暴力共産主義革命行動の予備演習をやったものとまあ疑われても、彼らはこれを否認することはできない、断じて否定することはできないであろうと私は考えるのであります。これが我々視察団の共通的に、3名の名で御報告申上げたい事項であります。

次に、私、一委員といたしましての私見が多少加わるかと思うのでありますが、今結論的に御報告申上げましたように、それが国際政治との関連性において行われているところの、共産主義的な暴力革命的行為の少くとも予行演習的なものとして行われているということについて、各地におけるところの調査いたしました警察当局が、そういう認識が極めて薄弱である。或いは極言いたしまするならば、私たちが今御報告申上げましたような考え方を少しも持っておらなかったと言っても誤りでないほどの認識しかなかったということが、私は極めて重要なことではないかと考えるのでありまして、それがどこから来るかということが、警察行政のことを担当いたしておりまするところの地方行政委員会において考えられなければならないことであるかと思うのであります。例えば名を挙げると、視察に行きましたその土地の人が、或いは困られるかも知れませんが、露骨に申しますると、各地ともすべてそうであります。

併しながらその例として、例えば京都府の国家地方警察の公安委員長のごときは、我々に対しましてそれほど重大な事件であるというわけでもないのですから、どうぞできるだけ穏便に済ましたいと思うというような話でありまして、全く今申したような横断的な意味において、それが行われているというところの何らの認識がないということを表白いたしておるのであります。そのほかの地方においても皆そうであります。

考えますのに、そういうような見方をするということは、第一には警察組織におけるところの公安委員会及び警察行政の単位というものが地域的に独立的なものであって、横断的な連繋というものは必ずしも完全でないということが、一つの原因であるかと思うのであります。大津でその事件が起るならば、大津自治体警察の所管としての大津市内の一つのローカル・アフェアーとしてのみしかその警察当局及び公安委員会はそれを考えない。それが今言うように同時に多発的に全国各地において行われておるということについての関連性をどうしても考えないようになるのであります。

それからもう一つは、こうした重大な政治的な意味、国際政治的な意味、或る意味におきましては治安上におけるところの警察行政上の事件といたしまして、現段階におけるところの最大の問題であり、又日本における政治上の最大の政治問題の一つであるとして考えなければならん。そうした事件というものをば、そういう重大な意味においてこれを少しも考えない。そう考えることができるような知的能力を持ったところの責任者というものが、各地において公安委員会の委員或いは警察署長の職に必ずしも就いていない。彼らのインテリジェンスからするならば、その事件が余りにその知的能力より離れたる大きな問題となっておるというようなことを考えるのであります。

それからもう一つは、これ又私見でありますが、たびたびこの地方行政委員会で言ったことでありますけれども、共産党の行動というものが如何なるところの理論的な基礎において、それが行われておるかということに対する、多くの政治家というものの認識の欠除でありまして、これは本委員会において特に私が吉田首相及び樋貝、殖田その他のいわゆる治安閣僚を招致いたしまして、この問題について多くの言を費して質問し、論戦をいたしたのでありますが、吉田内閣総理大臣を初め、治安閣僚の当局というものが、共産主義撲滅、或いは共産主義反対ということを旗印にしながら、その反対をしておるところの共産主義というものはどういうものかという、即ちマルクス・レー二ン主義に対する理論的な認識というものを持たないで、ただそういうことを叫んでおるところに、私は吉田内閣総理大臣に対して……、自由党内閣の持っておるところの最大の外交及び政治上における欠陥があるのであるということを言ったのでありますが、同様のことを痛感するのでありまして、中央の国政の担当者それ自身が、現下の世界に対処すべきところの、相手方の理論的な基礎というものに対する何らの理解を持っておらんのでありますから、況んや地方警察の警察長、或いは公安委員会等が十分なるこうした理解をしておらんということは、又無理がないということも言えるのでありますが、これは非常に大きなる私は政治上の問題であると考えておるわけであります。これは私見になりますが、併しながら私の私見は、更にこれらの問題を調査いたしまして痛切にそれを感じたのであります。それらの詳しいことは議論に亘りますから、これを省略して置きます。

それからこうした神戸事件、その他の事件のその後の処置につきましては、新聞記事等で多少その後知ったのでありますが、大橋法務総裁の、新聞紙上におけるところの記事による総裁の言といたしまして、これらの暴動を起すような朝鮮人をば本国へ返すということでありますが、総裁からその詳しき意見の内容を承わりたいと考えておりますが、それは当然に考えられるべきところの、この際適切なる処置であるというように私も考えるのであります。

ただ聞いておりまするところでは、視察に行きました名古屋の検察庁で聞いたことでありますが、南朝鮮では共産党員が若し日本からでも送還されて来るならば、何か向うの本国ではすぐ死刑に処せられるということになっておりますから、これは一つのエピソードでありますが、これはやはり調査の内容でありますから、エピソードとして申上げたいと思うのであります。

それからなお、これは京都の公安委員の一人で、アメリカに長くいた人が我々に話したことでありますが、アメリカではそうしたアメリカ全国を通じてのそういう国家的な意味を持った、ナショナルな意味を持ったところの警察行政、各地域別的に、各州或いは各自治体において地域的に分別されておるところの警察行政の横断的な立場からする欠陥を補充するために、フェデラル・ビューロー・オブ・インヴェステイゲーション(※FBI)というものがあって、それを補充しておるということを話しておりましたが、私たち十分にそれに対するところのインフォーメーションを持っておりませんが、今日、読売新聞に国家地方警察の武藤君がアメリカを視察されて、そのことを話していられるのが新聞記事に非常に大きく出ておりましたので、出張いたしましたところの公安委員会についてもたまたまその話が出たんであります。ビューロー・オブ・インヴェステイゲーションでありますから、検察局とでも訳すのでありましょうか、全米国を通じての、そういうものに対する警察行政の機関であります。武藤君の新聞記事にも出ておるのでありますから、国家地方警察等におきましても武藤君がそれについての御調査がありますならば、この委員会へ調査の報告書を一つ提出してもらって、我々の参考にするようにして頂きたいと思うのであります。ほかのことはこの調査報告書を一つ速記録に載せて頂くということをお願いいたしまして、これを以て一応私の報告を終ります。
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