昭和27年12月12日 参議院 法務委員会 [002] 政府委員(法務省入国管理局長) 鈴木一

昭和27年12月12日 参議院 法務委員会
[002]
政府委員(法務省入国管理局長) 鈴木一
(略)ただ一つ日韓会談が進行いたしません影響が現われまして、政府自体といたしましても困ったことになっておる事態はあるのでございます。

それは御承知でございましょうが、いわゆる我々の業務といたしまして、この強制退去に該当いたします人たちを、朝鮮、特に朝鮮の問題でございますが、送り還しておるのでございますが、お手許にもいろいろ資料を差上げてございますように、毎月1回くらい大体1船に250人乃至300人程度というものは現在送り還して来ております。

この送り還す人たちの主な者は、その大部分は不法入国者でございます。不法入国者以外に外国人登録令違反者が若干入っておるのでございますが、外国人登録令違反者は我々はその部分を手続違反者と申しておりますが、例えば登録をしないで日本に居住しておったり、或いは登録書を偽造して、或いは他人の分を使っておったというようなことで、外国人登録令違反に問われまして、1年以上の処刑を受けました人たちをやはり送還をいたしておるのであります。

これはこの新法によりまして、手続違反について送り還したのはまだないのでありますが、この出入国管理令が発効になります前に、外国人登録令というのがございまして、旧法によって密入国者と手続違反者とを合せまして、登録違反として強制送還を継続いたしておったのでございます。

その手続違反者につきまして、従来送り帰しておって、朝鮮側もこれを受取っておったのでありますが、突如受取らない、これは受取れないという事態が起ったのでございます。これが5月の12日でございまして、それまでに我がほうから朝鮮に対しまして、前後7回送還をいたしておったたのであります。7回同じようなことを繰返しておったにかかわらず、第8回目になりまして、密入国者だけはよろしい。ちょっと400名ばかり送り帰したのでありますが、そのうち密入国者だけは韓国側は受取る。併し、いわゆる手続違反者、密入国でない、日本に前からおった者を受取るわけには行かないということで、125名だけ逆送還と申しますか、受取らないので、止むを得ず我々はそれを大村の収容所に連れ戻ったのでございます。この事件がございましたために、いろいろなことが現在まで波及をいたしておるわけであります。

で、どうして韓国側がこれを受取らなかったかと申しますれば、それは我々には了解に苦しむのでございますが、韓国側の言い分といたしましては、日韓会談が朝鮮人の国籍処遇をきめることになっておるのである、それは終戦前からおった朝鮮人の国籍処遇ということを日韓会談できめることになっておるのであるから、それまではちょっとそれは受取れない。その人たちは、密入国のように、終戦後に朝鮮から出掛けて行って日本に密入国したと、それを帰すのは受取るけれども、それ以前からおった者については日韓会談を待ちたい。こういうことで拒否を受けたのでございます。

我がほうといたしましては、前後7回、むしろ国際慣行にもなるわけでありますが、前後7回受けておきながら、今になって受けないということは非常に重大なことではないかということで、その理由のないことを何回も機会あるごとに注意を喚起しておるのでございますが、現在に至るまでまだ受取るということを積極的に申しておらないのでございます。従って、我々のほうといたしましては、現在は密入国者だけを送り帰しておるのでございます。

ところが、5月の12日に逆送還がありまして以来、5月の19日でございましたか、長崎県の大村に、こういう送還をする人たちを収容しております大村収容所という施設がございますが、そこに約1000名ばかりの朝鮮人が参りまして、それを返せという、いわゆる奪還運動が起きたのでございます。そのときには、バリケードを築きましたりしまして、一晩中その収容所の廻りをぐるぐるやりまして、騒ぎがあったわけでありますが、幸いにいたしまして、退散をして事なきを得たのでございますが、そういう事件に対しまして、

我々といたしましては、収容施設大村収容所というものは、従来は密入国者を主にいたしまして、それを送り帰す、従いまして、女、子供が非常に多いのであります。我々のほうは、この出入国管理令に関する限りは、全部行政処分で一貫しております関係上、送還する者も罪人という考え方は全然ないのでございます。密入国をして参りましても、それは司法処分で或いは不起訴になり、或いは罰金を受け、或いは体刑を受ける、然る後に我々のほうに身柄を渡されてあるのでありますが、これを大村の収容所に収容いたしまして、月に1回の船で返してやる。

従って大村収容所の施設は、船待ちであるということに基礎を置きまして設計をいたしております関係上、こういうような騒動が起きます際には、非常に困るのでございます。こういうことを予想しておりませんので、外にめぐらしております塀のごときは、一枚板であったのでありますが、そういう関係から、急遽これを少しコンクリートの塀にしなければならんというようなことで準備をいたしておったのでございます。

ところが、その後、この5月12日の送還が第8回の送還になるわけでありますが、第10回目の送還のときに、この125名韓国側で受取らないと申しておりましたその中の7名だけが帰りたいという希望がございましたので、それを韓国側に伝えましたところが、それは一つ引受けようということになりまして、125名のうちの7名だけは送還に応じたのでございます。自分の国民が本国に帰りたいというのに、それを拒否するという手はないという意味と存じまして、我々のほうにおきましては、そういうことであれば非常に結構であるというふうに考え、この送還問題も、逆送還の問題もやや解決ができるのではないかと思っておったのであります。

ところが、第10回目の7人の希望者を受入れましたけれども、その次の船で、今度希望者を募りましたところが、約40名ほどの希望者が出て来たのでございます。そこで約40名の希望者を韓国側で引取ってもらいたい、韓国に帰りたいという熱烈な希望があるということを伝えたのでありますが、どういうわけでありますか、韓国側では今度は1人も受取らないということになったのでございます。

そこで5月の12日以来、この大村収容所に収容されて、韓国側では受取って呉れないというので、いつ帰される、いつ帰ることができるか、前途に光明を持たない人たちがそこにできて来たわけでございます。その人数、いわゆる不法入国でない、手続違反で韓国側で受取らないと認められるものは、この125名から7名を引きますと、それが漸次積り積りましてこの11月の初旬におきましては350名になったのでございます。その人たちが片方には大村収容所の周囲にコンクリートの塀ができるのがまだ準備中で、穴を掘ったり何かしておるということが一つの条件になり、又5月以来収容所におりますので痺れを切らして、何とか一つ自分の処置をしてほしいということで、そういうことから、早く帰りたいということから、この大村収容所の内部の空気が漸次険悪になって参ったのでございます。

で、いろいろ収容所長に対しまして内部から要求がございまして、その要求を申上げますと、大村収容所の収容者全員を即時釈放してくれ、それから収容所に外部と直接連絡の取れる電話の架設を望む、それから新聞記者との共同会見を許せ、帰国希望者を特に早く帰国させるようにせい、以上の4つの項目に対しまして、その返事を大村収容所長の直接の口から聞きたい、而も自分たちの収容されておる部屋の真中に来てそれを話せと、こういう5つの、いろいろ要求がございましたが、順次個々の要求が整理されまして5つになったわけでございます。そのうち大体これはノーという返事になることを予想いたしまして、最後にはとにかく自分たちの要求について所長が我々の中に来て説明をせいという不穏の空気が漲って参ったのでございます。
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